The Drunken Horse Gin の12種ボタニカル ― 3つの flavour waves が生まれる設計図

クラフトジンを語るときに最も重要なのが ボタニカル(蒸留に使う植物素材)の選定だ。The Drunken Horse Gin12種のボタニカル同時蒸留することで、口の中で 3つの flavour wavesとして順番に立ち上がる独特の構造を持つ。本記事では、公式に公開されている主要ボタニカルそれぞれの役割と、その背後にある設計思想を整理する。

なぜ12種なのか

クラフトジンのボタニカル数は、ブランドによって異なる。Tanqueray は4種Hendrick's は11種Monkey 47 は47種季の美 は11種。数の多さは 必ずしも品質と比例しないが、それぞれに「狙う味の立体感」がある。

Gentlemen's Craft 蒸留所が選んだ 12という数字は、ロンドンドライの伝統的なバランス(8〜12種)の上限近く。12 種すべてを 同時に蒸留することで、各ボタニカルが分離せず、口の中で順番に立ち上がる 3つの flavour wavesを作る ― これが TDH のレシピ設計の核心だ。

公式に明かされている主要ボタニカル

The Drunken Horse Gin の 12種すべてのボタニカルの完全リストは、Gentlemen's Craft 蒸留所のレシピの核心として 公開されていない。これはクラフトジン業界では一般的な姿勢で、レシピを完全に開示することは「再現可能になりクラフトの価値が薄れる」と考えられている。

ただし、公式サイトおよび業界メディアで確認されている主要ボタニカルは以下の通り。

ジュニパー(Juniper Berry)

香り: 松、ヒノキ、針葉樹のような清涼感 / 役割: ジンの法的・味的な骨格

ジンの定義そのもの。「ジュニパーを主な香味成分とする蒸留酒」という法的定義はEUとUKで明文化されている。TDH の名前の由来も、地元フランドルで 野生のジュニパーベリーを食べて酔った荷役馬の伝説に由来する。

ピンクグレープフルーツ(皮)

香り: 明るく華やかな柑橘、ほのかな苦味 / 役割: 第1波(シトラス)の主役

グラスに鼻を近づけた時に最初に立ち上がる香り。新鮮な皮(zest)として使われ、果汁ではないところが重要。

ライム(皮)

香り: シャープな酸味と柑橘油 / 役割: 第1波にエッジを与える

グレープフルーツの華やかさにライムのシャープさが組み合わさり、第1波の 輪郭をくっきりとする。

レモングラス

香り: 柑橘とハーブの中間、爽やかな草の香り / 役割: 第1波を「広げる」

レモングラスは citral(柑橘香の主成分)を多く含み、レモンに近い香りを持つハーブ。柑橘類より植物的で、第1波のシトラスを 立体的に広げる役割。

カルダモン

香り: 樟脳的な清涼感、東洋的なスパイス / 役割: 第2波(アーシー)に複雑性を加える

紀元前から薬として使われたスパイス。クラフトジンでは 東洋的な深みを加える素材として頻用される。TDH では舌の中央に 柔らかい広がりをもたらす。

コリアンダーシード

香り: 柑橘とハーブの中間、サフラン的なフローラル / 役割: 第2波のアーシーな下地

ジン業界で 「ジュニパーに次ぐ No.2 のボタニカル」と呼ばれる。ジュニパーと相性が抜群で、ほとんどのジンに使われる。TDH では カルダモンと組んで第2波の下支えになる。

アニス(Anise)

香り: 甘い八角的なスパイス / 役割: 第2波と第3波のつなぎ

業界メディアで公式に明かされている。アニス特有の 甘い揮発性が、アーシーからスパイシーへの遷移を滑らかにする。

3種の胡椒 ― 主役は Timut pepper

香り: グレープフルーツのような柑橘香 + 微かなしびれ / 役割: 第3波(スパイシー)と、第1波への呼応

TDH は 「a collection of 3 peppers」(3種の胡椒のコレクション)を使う。そのうち 最も顕著な主役がネパール・ヒマラヤ産の Timut pepper。中国の Sichuan pepper(花椒)の親戚で、山椒のような微妙なしびれグレープフルーツに非常に似た柑橘香を持つ稀少なスパイス。創業者たちが「完璧な胡椒のブレンド」を探す中で出会った、レシピ完成の決定打となった素材だ。第1波の柑橘を 口の奥で呼び戻す形で余韻を作る。残り2種は公開されていない。

残りのボタニカル ― 公式非公開

公式に名前が明かされているもの以外の数種は、Gentlemen's Craft 蒸留所のレシピの核心として非公開。

蒸留所のレシピは 「すべて公開しないことが伝統」の一部。完全に分かってしまうと、再現可能になってクラフトの価値が薄れる。3波の構造から逆算すると、残り2種の胡椒に加えて 第2波の厚みを支えるハーブ・スパイス系がいくつか入っていると推測される。

3つの flavour waves という設計

香水と同じく、ジンの香りも 3層に分けて捉えると分かりやすい。TDH の場合、これが公式の 「3 flavour waves」として明確化されている。

TDH の3つの flavour waves(公式表現)

  • 第1波(シトラス): ピンクグレープフルーツ、ライム、レモングラスの新鮮な皮 ― 鮮やかな柑橘の打ち出し
  • 第2波(アーシー): カルダモンとコリアンダーが、舌の中央に柔らかな広がりをもたらす
  • 第3波(スパイシー): 3種の胡椒、特に Timut pepper が、第1波の柑橘を再び呼び戻す形で余韻を作る

この3波が 分離せず連続的に立ち上がるのは、12種すべてを同時蒸留する手法と、Gentlemen's Craft の蒸留器(kettle のコラムに1,000を超える springs を備えた constant reflux 構造)の組み合わせが生み出す特徴。マティーニやネグローニのようにジンの個性が前面に出るカクテルで、3波の構造がはっきり感じられる。

本記事で触れている The Drunken Horse Gin は、 日本公式オンラインショップ から購入可能です。

「柑橘で始まり、柑橘で終わる」アロマ構造

TDH のレシピ設計で最も特徴的なのが、第1波と第3波の両方に「柑橘の香り」を配置している点だ。

  • 第1波: ピンクグレフル + ライム + レモングラスの皮で 分かりやすい柑橘
  • 第3波: Timut pepper の柑橘香で 遅れてくる柑橘

つまり、ジンを口に含むと 最初に柑橘が立ち、中央でアーシーに移行し、最後にもう一度柑橘が呼び戻される。普通のジンでは「シトラス → ハーブ・スパイス → ジュニパーの余韻」という構造になるところ、TDH は 柑橘でサンドイッチする独自の構造を持っている。これが「smooth and round」と評される所以だ。

まとめ ― 12のキャラクターと、3つの波

The Drunken Horse Gin の12種のボタニカルは、ジュニパーを骨格に、柑橘類(ピンクグレフル・ライム・レモングラス)が第1波を、カルダモンとコリアンダーが第2波を、3種の胡椒(主役は Timut pepper)が第3波を担う、明確な役割分担を持つ。

これら12のキャラクターが Gentlemen's Craft の蒸留器の中で同時に出会い、独自の constant reflux で精製されて1つの合唱になる ― それが、ボトルの中の透明な液体だ。次に TDH を一杯注ぐとき、口の中で順番に立ち上がる3つの波を意識して飲んでほしい。

ベルギー発、物語のあるクラフトジン

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よくある質問

Q. TDHのボタニカル12種は具体的に何ですか?

A. 公式に明かされている主要なものは、ジュニパー、ピンクグレープフルーツの皮、ライムの皮、レモングラス、カルダモン、コリアンダー、アニス、そして3種の胡椒(主役はネパール・ヒマラヤ産のTimut pepper)。残り数種は Gentlemen's Craft 蒸留所のレシピの核心として非公開です。

Q. Timut pepperって何ですか?

A. ネパール・ヒマラヤ原産の胡椒の一種で、中国の花椒(Sichuan pepper)の親戚です。最大の特徴は山椒のような微妙なしびれと、グレープフルーツに非常に似た柑橘香。TDHの第1波の柑橘を第3波で「呼び戻す」役割を担う、レシピ完成の決定打となった素材です。

Q. 「3つの flavour waves」とは何ですか?

A. TDHが公式に説明している3層の味の構造です。第1波はシトラス(ピンクグレフル、ライム、レモングラス)、第2波はアーシー(カルダモン、コリアンダー)、第3波はスパイシー(3種の胡椒、特にTimut pepper)。同時蒸留と constant reflux で12種が分離せず層になるため、口の中で順番に立ち上がります。

Q. ボタニカルの数が多いほど美味しい?

A. 必ずしも比例しません。Tanquerayは4種、Hendrick'sは11種、Monkey 47は47種、TDHは12種と幅広く、いずれも国際的に評価されています。「数」より「組み合わせの完成度と蒸留方式の調和」が重要です。

Q. なぜ12種すべてを同時に蒸留するの?

A. 12種のボタニカルを別々に蒸留してブレンドする方法(コンポーネント・メソッド)もありますが、TDHはすべてを1つの kettle で同時蒸留する古典派の手法を採用。Gentlemen's Craft の独自設計の constant reflux と組み合わせることで、各ボタニカルが分離せず3層に重なる立体的な香りが生まれます。

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※ お酒は20歳になってから。妊娠中・授乳期の飲酒は避けてください。飲酒運転は法律で禁止されています。

出典: The Gin - Drunken Horse Gin / About Us / Master of Malt

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