炭酸の弾ける音、グラスの上にこんもりと盛り上がる白い泡、レモンの香り。ジンフィズは 150 年近く前にカウンターの上で生まれ、いまも世界中のバーで注がれ続けている数少ないクラシックの一つです。
このページでは、ジンフィズとは何かという基本から、家で再現できる黄金比、ニューオーリンズで生まれた特別な変奏「ラモスジンフィズ」の物語、そして 2026 年現代のバーテンダーが提案している飲み方までを 1 本にまとめます。読み終わるころには、次の週末に振ってみたくなる一杯になっているはずです。
ジンフィズとは何か ― 1876 年、カクテルブックの中で生まれた
ジンフィズの初出として広く知られているのは、アメリカの伝説的バーテンダー Jerry Thomas が 1876 年に改訂した『The Bar-Tender's Guide』("How to Mix Drinks, or The Bon-Vivant's Companion")です。この版で、Fizz / Sour / Flip といった一群のスタイルが活字として初めて整理されました。
「フィズ(Fizz)」という名前は、ソーダ水を加えた瞬間に立つ fizz(炭酸が弾ける音)に由来します。サワー(Sour=ジン+柑橘+甘味)にソーダを足し、その場でひと息に飲み干す ― これがジンフィズの最も素朴な定義です。Jerry Thomas 自身も、ジンフィズは「躊躇せずに飲み干す」もので、食事の合間にちびちびやる類のカクテルではないと記しています。
ジンフィズと Tom Collins は何が違うのか
材料はほぼ同じ(ジン・レモン・甘味・ソーダ)ですが、決定的な違いは 「氷を入れて飲むか、入れずに飲むか」。ジンフィズはシェイクして冷やし、氷を入れないグラスに注ぎます。Tom Collins は氷を満たしたタンブラーに注ぎ、ソーダの量も多めで、よりロングドリンク的に楽しむもの。そして Tom Collins は伝統的に Old Tom Gin(やや甘いスタイルのジン)で作られてきた歴史があります。
クラシックジンフィズの作り方 ― 黄金比と手順
家でまず再現してほしいのは、卵を使わない素朴な「クラシックジンフィズ」。材料は 4 つだけ、けれど比率を外すと一気に表情が変わります。
クラシックジンフィズ(1 杯分)
- ドライジン … 45 ml
- フレッシュレモン汁 … 20 ml
- シンプルシロップ(砂糖 2 : 水 1)… 10〜15 ml
- ソーダ水(よく冷えたもの)… グラスを満たす分
手順:
- シェイカーにジン・レモン汁・シロップ・氷を入れ、しっかりめに 20〜30 秒 シェイク。表面に細かい泡の層ができればOK。
- 氷を入れていない、よく冷やしたハイボールグラスに茶こしで漉しながら注ぐ。
- 冷えたソーダ水で静かに満たす。強く混ぜないこと ― 泡が消えます。
- 必要ならレモンピールを軽く絞って捨てる。すぐ飲む。
レモンとシロップの比率は好みで微調整して構いません。柑橘を効かせたければレモン 22ml × シロップ 10ml、丸めたければレモン 18ml × シロップ 15ml。市販のレモンジュースではなく、必ずフレッシュで搾る ― これが一番効きます。
本記事で触れている The Drunken Horse Gin は、 日本公式オンラインショップ から購入可能です。
ラモスジンフィズ ― 12 分シェイクの伝説と、35 人のシェイカーボーイ
ジンフィズの世界には、「もう一つの正典」と呼べる存在があります。1888 年、ニューオーリンズの Imperial Cabinet Saloon(Gravier Street)で、オーナーバーテンダーの Henry C. Ramos が考案したのが「New Orleans Fizz」、いまでいう ラモスジンフィズ です。
クラシックジンフィズに、卵白・生クリーム・ライム汁・オレンジフラワーウォーターを加え、長時間シェイクすることで、グラスからこんもりと盛り上がる卵白フォームを作ります。ラモスはこのカクテルに 「12 分間振り続ける」 という伝説的な手順を課しました。
需要は爆発的で、1915 年のマルディグラ期間中、Imperial Cabinet では 35 人ものシェイカーボーイが交代制でシェイカーを振り続けたと記録されています。腕力勝負のカクテルで、彼らはリレー方式で一杯を完成させていました。
ただし「12 分」は現代の研究では誇張だと見られていて、実際の時間は 5 分前後 が実用ラインだったとする説が有力です(Atlas Obscura, PUNCH)。12 分が伝説として残ったのは、それだけ手間のかかる、職人芸的な一杯だったということでもあります。
ラモスジンフィズ(1 杯分)
- ドライジン … 45 ml
- レモン汁 … 15 ml / ライム汁 … 15 ml
- シンプルシロップ … 15 ml(または粉砂糖小さじ 2)
- 卵白 … 1 個分
- 生クリーム … 15 ml
- オレンジフラワーウォーター … 2〜3 ダッシュ
- ソーダ水 … 適量
手順: ソーダ以外を氷なしで「ドライシェイク」30 秒 → 氷を入れて 2〜5 分シェイク → 漉してグラスへ → 中央に細くソーダを注ぐと、白い泡がせり上がってくる。
The Drunken Horse の目線 ― 蒸留と「泡」の話
The Drunken Horse Gin が生まれるベルギー・アントワープ近郊フレムデ(Vremde)の Gentlemen's Craft 蒸留所では、創業者たちがロンドン Portobello Road で出会ったオランダ人エンジニアが設計した、独自の蒸留器を使っています。kettle のコラムに 1,000 を超える springs が組み込まれていて、蒸気がそこを通過する際に constant reflux(連続的還流)が起こる構造。「smooth and round」と評される TDH の口当たりは、この精密な reflux 設計から生まれています。
ジンフィズという 1 杯の命もまた「泡」です。シェイカーの中でジンと柑橘が氷とぶつかって細かい気泡を作り、グラスに注がれた瞬間、ソーダの炭酸がそれを押し上げる。ラモスジンフィズの卵白フォームに至っては、人の腕で 5 分振り続けて初めて立ち上がるもの。泡は、時間と動きの記憶です ― 蒸気が銅に当たって還る蒸留器の中の動きも、グラスの中で立ち上がるカクテルの泡も、同じ系譜の話。
12 種のボタニカル(柑橘系、フローラル、ヒマラヤのティムットペッパー)を抱えた The Drunken Horse Gin は、シンプルなクラシックジンフィズで素地の厚みが出やすく、ラモススタイルにすると卵白とクリームの脂質に負けないアロマを残してくれます。サンフランシスコ・香港・シュトゥットガルトで金メダルを獲得した一本の使い道として、フィズはとても素直な選択肢です。
Fizz 一族 ― Silver、Golden、Royal、Diamond、Green
フィズは家族で広がっているスタイルです。元のジンフィズに何を足すかで、名前が変わります。
- Silver Fizz ― 卵白を加える。シルキーな口当たりと白い泡が特徴。
- Golden Fizz ― 卵黄を加える。コクとイエローの彩り。
- Royal Fizz ― 卵 1 個まるごと。最もリッチ。
- Diamond Fizz ― ソーダの代わりにシャンパン/スパークリングワイン。
- Green Fizz ― グリーンミントリキュールを加える。色も香りも夏向き。
2026 年現在、現代のバーテンダーは Fizz 一族をさらに拡張しています。エルダーフラワーシロップを足した「Botanical Fizz」、フィンガーライムや日向夏など 地域の柑橘を主役にした酸の置き換え、シソやバジルといったハーブを叩いて加える流派 ― ジンフィズは今、もっとも自由に解釈できるクラシックの一つになっています(VinePair, Advanced Mixology)。
家で作るときに外しがちなポイント
- ソーダがぬるい: フィズで一番失敗するのはこれ。冷蔵庫の奥でしっかり冷やしてから使う。
- 注ぐ前に混ぜる: ソーダを入れた後にスプーンでぐるぐる回すと泡が消える。一度軽くだけ。
- レモンが瓶詰めの濃縮: 味が平坦になります。フレッシュで搾るのが最大のコスパ。
- シェイクが短い: 卵白を使うラモス系では、まず氷なしでドライシェイク → 氷を入れて再シェイクの 2 段が定石。
- ジンが弱い: アルコール度数 40〜47 度のドライジンが土台。ライトジンだと炭酸とレモンに香りが負ける。
まとめ ― 1876 年から現代まで、一杯が続いている理由
ジンフィズはレシピが極めてシンプルでありながら、Jerry Thomas の活字、Henry Ramos の 12 分シェイク、Mardi Gras のシェイカーボーイ、そして 2026 年のボタニカルバーテンダーまで、150 年にわたって人の手で受け継がれてきました。
誰でも家で作れる素朴さと、極めれば限りなく職人芸になる奥行きを、同じ一杯のなかに持っているところがこのカクテルの魅力です。今夜のグラスに、まず一本のドライジン、絞りたてのレモン、ひとさじのシロップ、そして冷えたソーダを ― それだけで 150 年の歴史と接続できます。
ベルギー発、物語のあるクラフトジン
サンフランシスコ・香港・シュトゥットガルトで金メダルを獲得した
The Drunken Horse Gin を日本公式サイトからお求めいただけます。
出典
- Wikipedia: Fizz (cocktail) ― Fizz 一族と Ramos の歴史
- NewOrleans.com: Ramos Gin Fizz ― Henry C. Ramos と Imperial Cabinet Saloon
- Atlas Obscura: The Gin Fizz That Calls for 12 Minutes of Shaking
- PUNCH: Hack Your Drink: The Two-Minute Ramos Gin Fizz
- Difford's Guide: Gin Fizz Cocktail Recipe
- VinePair: The 7 Best Gin Fizz Variations
- Advanced Mixology: 2026 Bar Trends
- Revelry Tours: The History of the Gin Fizz ― Jerry Thomas 1876 への言及
※ 本記事は 20 歳以上の方を対象とした内容です。飲酒は 20 歳になってから。妊娠中・授乳期の飲酒、飲酒運転は法律で禁止されています。卵白を含むレシピを家庭で再現する場合は、新鮮な卵と衛生的な取り扱いをお願いします。