アントワープから南東に少し走ると、フランドル地方の静かな村 Vremde(フレムデ)に入る。レンガ造りの古い家並みと畑、教会の鐘の音。そんな田舎町の片隅に、The Drunken Horse Gin を生み出す Gentlemen's Craft 蒸留所がある。本記事は、3人の幼馴染が古い horse trailer から始めたクラフトジンの物語を、公式の創業ストーリーに沿って紹介する。
3人の幼馴染 ― Benoît, Tom, Pieter-Jan
The Drunken Horse Gin の物語は、3人の幼馴染が「ちゃんとした夜」を一緒に過ごしたところから始まる ― Benoît, Tom, Pieter-Jan。それぞれの道を歩んでいた3人が、久しぶりに再会したアントワープでの一夜。話題は「自分たちで何か面白いことを作れないか」へと転がっていった。
そこで目に留まったのが、古い horse trailer(馬運搬車)だった。「これを mobile bar に改造して、自分たちで作ったスピリッツを積んで走らせたら面白いんじゃないか」。冗談半分の発想が、本気の蒸留プロジェクトへと変わっていく。3人は研究と実験を重ね、ここから本格的なジン作りへ向かうことになる。
名前の由来 ― ジュニパーを食べて酔った馬
「The Drunken Horse(酔っ払った馬)」という奇妙な名前は、地元に伝わる 古い伝説に由来する。
昔のフランドルの農村で、農家の 荷役馬(draft horses)が、畑のそばに自生する 野生のジュニパーベリーを食べてしまうことがあった。ジュニパーには発酵を促す成分があり、これを食べた馬たちはふらふらと 「酔ったように」 歩いたという ― そんな民話が、ブランド名のルーツになっている。
ジンの主要ボタニカルである ジュニパーが、ブランド名の由来そのものになっている、というのは「ジンを真ん中に据えた」ブランドアイデンティティの表現として、非常によくできている。
ロンドン Portobello Road で出会ったオランダ人エンジニア
3人がジンのレシピを本格的に詰めようと向かったのが、ロンドンの Portobello Road。ジン文化の世界的な震源地だ。そこで彼らは、ある オランダ人エンジニアと出会う。
「なぜ、世界中の蒸留家たちは、200年前の技術をいまだに使い続けているんだ?」 ― このエンジニアは、長年ジン業界の蒸留器の 停滞に疑問を抱いていた。21世紀の素材と精度で、新しい蒸留器をデザインしたいという構想を持っていた。
その構想を聞いた3人と彼の間で、すぐに意気投合した。彼が設計した 新しい蒸留器を Gentlemen's Craft 蒸留所に据え、3人はそこで自分たちのジンを作り始める。
蒸留器 ― 21世紀型の "kettle" と1,000を超える springs
Gentlemen's Craft の蒸留器の最大の特徴は、"kettle"(ケトル)のコラム内部に組み込まれた 1,000を超える springs(バネ状の構造)だ。蒸気がこのスプリング群を通過する際に constant reflux(コンスタント・リフラックス、連続的還流)が起こり、ジン本来の香りを精製しながら、滑らかで丸みのある仕上がりを生む。
The Drunken Horse Gin の特徴的な「smooth and round」な口当たりは、この独自設計の蒸留器に由来する。詳しい技術解説は Gentlemen's Craft の蒸留方式で扱った。
12種のボタニカルと、3つの flavour waves
The Drunken Horse Gin が使う 12種のボタニカルは、すべて 同時に蒸留される("All 12 botanicals are distilled at the same time")。出来上がりは、口の中で 3つの flavour waves(フレーバー・ウェーブ)として順番に立ち上がる、独特の構造を持つ。
3つの flavour waves
- 第1波:シトラス ― ピンクグレープフルーツ、ライム、レモングラスの新鮮な皮の香り
- 第2波:アーシー ― カルダモンとコリアンダーが、舌の中央に柔らかい広がりをもたらす
- 第3波:スパイシー ― 3種類の胡椒、特に ヒマラヤ産 Timut pepper(ティムットペッパー)が、第1波の柑橘を再び呼び戻す形で余韻を作る
3波の主役である ネパール・ヒマラヤ産の Timut pepperは、3人がレシピを詰める過程で「完璧な胡椒のブレンド」を探す中で出会った、決定的な素材。Sichuan pepper(花椒)の親戚で、柑橘のような香りを持つ稀少なスパイスだ。これが第1波の柑橘と呼応して、TDH 独特の「柑橘で始まり、柑橘で終わる」アロマ構造を生む。
本記事で触れている The Drunken Horse Gin は、 日本公式オンラインショップ から購入可能です。
国際的な評価 ― 3つの大陸の品評会から
Gentlemen's Craft 蒸留所の小さな規模からは想像しにくいほど、The Drunken Horse Gin は 世界の主要なスピリッツ品評会で連続して評価されてきた。3人は完成したボトルを北米・アジア・ヨーロッパの3つの大陸の品評会に送り、複数の Gold および Double Gold メダルを獲得している。
- San Francisco World Spirits Competition(米国): 北米のスピリッツ業界で最も権威のある品評会のひとつ。TDH は2018年大会で gold medal を獲得
- Hong Kong International Wine & Spirit Competition(香港): アジア最大級の国際品評会
- International Spirits Award(ISW, Stuttgart)(ドイツ): ヨーロッパ大陸を代表する権威ある品評会
Vremde の小さな蒸留所が世界へ
Vremde という小さな村の、アントワープ郊外のマイクロディスティラリー。そこから生まれた一本のジンが、世界3大陸の品評会の审査員に評価され、欧州各国・英国・アジアの市場に並んでいる。
The Drunken Horse Gin の物語は、結局のところ 「3人の幼馴染が、自分たちで作りたいものを作ったら、世界がそれを認めた」 という、極めてシンプルなクラフトの物語だ。21世紀の最新蒸留器、ヒマラヤから来た稀少な胡椒、ベルギーの小さな村 ― これらが組み合わさって、一本のボトルになっている。
まとめ ― クラフトの本質
クラフトジンを飲む、ということは、場所と人と物の物語を一緒に飲むことだ。Gentlemen's Craft 蒸留所の場合、それは アントワープ郊外の Vremde、3人の幼馴染(Benoît, Tom, Pieter-Jan)、オランダ人エンジニアが設計した21世紀型の蒸留器、という3つの具体物だ。瓶の中の透明な液体は、その3つの記憶を運んでいる。
次に The Drunken Horse Gin の一杯を注ぐとき、その背後にある物語をほんの少しだけ思い浮かべてほしい。それだけで、グラスの中の景色が一段豊かになる。
ベルギー発、物語のあるクラフトジン
サンフランシスコ・香港・シュトゥットガルトで金メダルを獲得した
The Drunken Horse Gin を日本公式サイトからお求めいただけます。
よくある質問
Q. Gentlemen's Craft 蒸留所はどこにありますか?
A. ベルギー・アントワープ郊外のVremde(フレムデ)村にあります。マイクロディスティラリーで、3人の幼馴染(Benoît, Tom, Pieter-Jan)が運営しています。
Q. The Drunken Horse という名前の由来は?
A. 地元フランドルの古い伝説に由来します。畑のそばで野生のジュニパーベリーを食べた荷役馬たちが、ふらふらと「酔ったように」歩いたという民話が元になっています。ジュニパー=ジンの主役という、ブランドの中心が表現された名前です。
Q. どんな蒸留器で作られているの?
A. ロンドンPortobello Roadで創業者たちが出会ったオランダ人エンジニアが設計した、21世紀型の最新蒸留器です。kettleのコラム内に1,000を超えるspringsが組み込まれ、constant reflux(連続的還流)で滑らかな仕上がりを実現します。
Q. TDHの12種のボタニカルの主な内容は?
A. ジュニパーを核に、ピンクグレープフルーツ、ライム、レモングラスの新鮮な皮、カルダモン、コリアンダー、3種の胡椒(うち主役はネパール・ヒマラヤ産のTimut pepper)など、合計12種が同時蒸留されます。完全リストは公開されていません。
Q. 蒸留所は見学できますか?
A. 蒸留所への直接訪問は予約制で限定的に受け付けています。詳細はThe Drunken Horse Gin公式ウェブサイト(thedrunkenhorsegin.com)または日本の正規代理店までお問い合わせください。
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※ お酒は20歳になってから。妊娠中・授乳期の飲酒は避けてください。飲酒運転は法律で禁止されています。
出典: Drunken Horse Gin - About Us / The history of The Drunken Horse Gin (Luxuria Lifestyle) / Luxury Boutique Magazine